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■芽生え
光の無い、モンスターだらけの遺跡を抜けるとそこは天国だった。
太陽の光で照らされ、爽やかな風が吹く。鮮やかな緑は心が落ち着く。
そこには小動物しかいない。人の気配はまるでない。
静かで心地よいその場にいるのは、トラヴィスただ1人。
前に訪れたときと同じように、そこは隔離されてるかのごとく滅多に人が足を踏み入れない、トラヴィスにとっての聖地である。
そのときよりも若干、猫が増えたのは確実で、気のせいではない。
こんなモンスターだらけの場所を抜けてまで何もないこの場に来る人間は早々いない。
本当に、限られた人間しかやってこない。
「あー、いたいた。お前、入り口に居なきゃ意味ないだろー?進入し放題だったぜ」
それは、モンスターをなぎ倒す強い力を持ち、なおかつこの先に何が待ちうけているのか興味のある人間。もしくは。
「・・・・・・遺跡に入りたがる人間なんてそんなにいない・・・問題無い」
奥に何が待っているのか知っていて、さらにそれを求める人間。
モンスターだらけの遺跡を、息も切らさずに抜けてきたのは良く知った人物だった。
「一応遺跡守ってるんだから少しは関心持てよ・・・」
苦笑いしたジェレミーは、猫を膝に乗せ、大樹を背もたれにしているトラヴィスの横に座った。
そして空を仰いで関心したように言う。
「うわー、空が青いなー」
「・・・当たり前だろ・・・」
「でもここから見るとまた格別だよなー」
完全無防備状態のジェレミーに、トラヴィスは小さくため息をついた。
「ジェレミー・・・」
「ん?なんだ??」
ボーっと空を眺めていたジェレミーは、呼ばれてトラヴィスの顔を見る。
「何しにきたんだ・・・」
「なんだよそれ。まるで用があってきたみたいな言い方だな」
「・・・・・・・・・・用はないのか」
「んー・・・・?そうだなー・・・・・・」
言いながらジェレミーは大きく伸びをすると、また空を見上げた後、笑顔を作って嬉しそうにトラヴィスを見た。
「お前に会いにきた」
「・・・いや・・・だからその理由を・・・・」
「ああ?それ以上何があるんだよ」
真顔でそう言われてはこれ以上何も言えない。
トラヴィスは眉をひそめながらも追求をやめた。
そのトラヴィスの表情に、ジェレミーは頬を膨らませる。
「なんだよー。嫌なのか?そりゃこんなところまで引き篭もって人を避けてるんだから誰にも会いたくないっつーのも態度で示してるけどよー」
「・・・・・・嫌だったら・・・」
「んん?」
急にトラヴィスはまっすぐと、どこを見るでもなく視線をジェレミーからそらし、ポツリと呟いた。
「嫌だったら・・・無言で立ち去ってる」
そのトラヴィスの言葉に、ポカンと口をあけて放心状態になったジェレミーだが、次第に表情を変え、思いっきり噴出した。
「あっはっはっは!そうだよな!!嫌な奴と会話するような人間じゃないもんなお前!!じゃあさ・・・」
ジェレミーはトラヴィスの両手をつかむ。それに気がつきトラヴィスはジェレミーの顔を見ると、ジェレミーは勝ち誇ったような笑顔で言い放った。
「俺、愛されてるんだよな」
「・・・・・・そこまで・・・・・・でもない・・・・・」
その笑顔と言葉に頬を赤くしたトラヴィスは思わず視線をそらしてボソボソと呟く。
「お前から嫌われないは他の人間の愛してると同等なんだよ同等!!」
ポンポンとトラヴィスの肩を叩きながらジェレミーは当然のような口調で話し、トラヴィスの反論の口調も弱い。
「そんなわけ・・・・ないだろ・・・」
「あるの!俺にはわかるの!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・お前はもう・・・仕事に戻れ」
もう返す言葉の無くなったトラヴィスは投げやりな口調で言った。
「いいぜー。その代わりお前も戻るんだからな!」
「・・・ん・・・わかった」
恐らく断ったらジェレミーもここに残るであろうことを推測し、トラヴィスはしぶしぶ立ちあがろうとした。
「あ、ちょっと待て!」
「?・・・・・・・・・・・・・・っ!?」
立ちあがろうとするトラヴィスに待ったをかけて、ジェレミーはトラヴィスの肩を両手でつかみ、自分に顔を向けされるとそのまま唇を重ねた。
自然な流れ作業にトラヴィスはなすすべも無く固まった。
「・・・・っと。立ちあがるとなかなかツライからなぁー」
ゆるゆると何事も無く立ちあがり、ジェレミーは顔をうっすら赤くしているトラヴィスに手を差し伸べた。
一応その手をつかみ、トラヴィスはよろよろと立ちあがった。
そうなるとジェレミーはトラヴィスを見上げる形になる。
・・・どうしようもない身長差。
「・・・・・・お前が小さいんだろ・・・・」
「ち、ちがっ・・・!お前がデカイんだよ!何食ってたらそんなにデカくなるんだ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・まんじゅう・・・・・・・・?」
真剣に考えた後に呟いたトラヴィスの言葉にジェレミーやれやれと呆れ顔でため息をついた。
「あー、そうか。生まれつきってやつか。さぁって・・・戻るか」
「ああ・・・」
「ちゃんと援護してくれよー」
「わかってる・・・・・」
争いの中に出会い、平和を生きる今、今まで知らなかったことが見えてくる。
他人と会話をするのがこんなに心が安らぐなんて考えてもみなかった。
それを芽生えさせたのは明るく輝く、温かい太陽のような笑顔だった。
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