|
■束縛
そこはミドルポートの宿屋、都合により二部屋しかとることができずに2人ずつにわかれることになったのだ。
じゃんけんも何もなしに、アルトの「じゃあシグルドとハーヴェイは同じ部屋だね」と当然の如く言われ、反論する間もなく2人は相部屋となった。
「・・・やけに手際がいいと思ったらあのヤロウ・・・・・・この部屋シングルだぜ」
ハーヴェイは部屋に入ってきたとき、目に入ってきたベッドを見て大きなため息をついた。
あとから入ってきたシグルドもそれを確認するとああ・・・とアルト達がいるであろう方角を見つめた。
「そういえばヤケに爽やかな笑顔を浮かべていらしたな」
「・・・ハメられたな・・・」
ドカッと乱暴に荷物を置き、ハーヴェイは部屋に一つしかないベッドに勢いよく座る。
そして対照的に物音立てずに荷物を置いているシグルドを見ながら言った。
「・・・・・・・・俺は床でなんか寝ないぞ」
言われたシグルドは不思議そうにハーヴェイの顔を見ていたが、ふいに唇の端が上がる。
「なんだ、誘ってるのか?」
「なっ・・・!なんでそーなるんだよ!!!」
「冗談だ」
顔を真っ赤にして立ちあがったハーヴェイに悪意の無い笑顔でシグルドは言い、部屋を出ようとした。
「・・・・・・・・・どこいくんだよ」
不審そうな目で尋ねるハーヴェイに、シグルドは苦笑する。
「別に、その辺を見てまわるだけだ」
言ってシグルドが部屋を出ようとドアノブをつかむと、ぐいっと反対の腕を引っ張られた。
振り返るといつになく真剣な面持ちでハーヴェイが立っていた。
「ハーヴェ・・・」
「ここにいろよ」
辺りが静まり返るような、静かで力のある声。
シグルドは驚きで目を丸くしていると、ハーヴェイは目を伏せて、細く、長いため息をついた。
そしてシグルドの両手を両手でつかんで力強く下に目線を強制的に下げるといつもの口調に戻してハーヴェイは言った。
「お前、さっきまでどんな顔して街中歩いてたかわかってるか?もう見てらんなかったぜ??ったく嫌なら嫌っていえばいいじゃねーか。あんな回りくどいこと 言ってないでよー。ま、あれだけ言ってお前をつれてくアルトもアルトなわけだが・・・あーまあもう・・・とにかく!!この部屋から出るな!!!お前は俺の そばにいればいいんだ・・・・・って・・・」
何を言ってるんだ俺、と頬を急激に赤く染めながらハーヴェイはつかんでいた両腕を離して俯いた。
ころころと変わるハーヴェイの表情に追いつくことができないシグルドは呆然とハーヴェイを見つめていた。
沈黙に耐えられなくハーヴェイはシグルドと視線が絡まない程度に顔を上げ、投げ捨てるように言う。
「な、なんでもいいからとにかく・・・・・・っ!」
言葉を遮られ、ハーヴェイはシグルドに強く抱き寄せられた。
ハーヴェイはシグルドの胸に顔を埋めるかたちで、シグルドの表情は見えない。
「わかった。お前のそばにいる」
「いくらなんでも近すぎだろ」
「・・・・・・そうだな」
「・・・・・・・・・」
降ってきた声から相手の心境を読み取ったハーヴェイは黙り込む。
この体勢は表情を隠すためのものか・・・
今目の前にあるこの胸の中でどんな葛藤があるのか想像もつかない。
たとえ理解できても消してあげることができないのならそれは無意味だ。
「・・・・・・・・・・・すまない」
「謝るな」
どうすればいいのかわからない自分が許せなくなるから。
自分が何をしたいのかわからなくなるから。
「お前は・・・何も考えずに俺のそばにいればいいんだ」
「・・・そうか・・・そうだよな・・・」
それができればどんなに楽だろうか・・・後ろに続くであろう言葉。
抱きしめる力が、少し強くなる。
「・・・・・ハーヴェイ・・・・」
「どうした?」
「しばらく・・・このままでいいか・・・?」
「・・・ああ」
「・・・・・・・・・・・・・ありがとう」
何も言ってあげられないし何もしてやることができない。
だからせめて、相手が望むことを。
ハーヴェイは自分の腕をシグルドの背中にまわし、力を込める。
離したくないのは同じ。
離れたくないのも同じ。
「俺も・・・このままでいたい・・・」
作り物ではない笑顔が見られるようになる刻まで・・・・・・
|
|