seepking indexへ text blog off link このぶつかり合い…格別だ!
off

■積み重ね

「ふざけるな」
「ふざけていない」
「意味がわかんねぇ」
「不本意だ」
「不本意に後衛が前にくるな」
「不本意なものは不本意だろう」
「お前の脊椎どうかしてんじゃねーの?」
「そんなこと言われても知らないな」
「自分のこともわからない奴が他人を庇うな」
「だから不本意だと言っているだろう」
「あーもう知らねー!」
「結構だ」
かれこれ十数分続いている似たようなやり取りの横で、ヘルムートはため息をついた。
原因はどちらにあるのか、どちらにもないのか。
正直どちらと決めかねる。小さなものの積み重ねが『現在』を生み出したのだろう。
迷子、といえば可愛いものだが遭難、といえば生死にかかわる重大な事故だ。
辺りは木々が不規則に生え伸び、湿度が高いわりには温度が低い。
大して広くはないであろう洞窟の入り口付近にヘルムート、シグルド、ハーヴェイはいた。
この場にたどり着くまでには短時間で決して良いとはいえない出来事が起こりつづけた。
まず、リーダーであるアルトが道を間違えて4人が迷子になったこと。
方位磁針と地図が手元にあるのでそれは小さな事件で終わるように思えた。
しかし次にモンスターが襲いかかってきた。
数が多く、戦っているうちに3人はアルトとはぐれてしまった。
敵をまきながら進み、なんとか逃げ切った3人だったが、そこには巨大なモンスターが潜んでいた。
1人欠けた状況、苦戦を強いられたが、何とか勝利できそうな時、横から飛び出してきた別のモンスターが前衛に襲いかかってきた。
2人より先にその事態に気がついたシグルドはとっさに前に出て、ハーヴェイを庇う。
だがそのおかげで足に怪我を負うことになった。
・・・・そして現在に至る。
2人のやり取りは相手を責めている言葉だが、実際のところお互い自分に責任を感じているのだろう。
誰が悪いわけではない。ただ運が悪かった。それだけである。
いつまでもここにいるわけにはいかない。3人でこれほど苦戦したのだ。1人になったアルトは一体どうなったのか。
「・・・そろそろ気が済んだのではないか?もうモンスターの気配はなさそうだ。これからのことを考えねば」
言い争っている2人にヘルムートは真剣な口調で言った。
それは2人のやりとりを止めるにはふさわしいものである。
シグルドも真剣な様子で思考を巡らせた。
「そうだな。アルト様が心配だ」
「しかも地図も磁石もアルトが持ってるんだろ?俺達の心配もしたほうがいいぜ・・・」
「さっきから突破口を考えているのだがどうも駄目だな・・・手探りで出口を見つけだすか、体力を温存して助けを待つか・・・」
ヘルムートが言うとハーヴェイはげんなりする。
「・・・軽い賭けだな・・・・・・」
ああ、とヘルムートは返事をし、難しい表情で止血と軽い処置だけしてあるシグルドの脚の怪我に視線をやった。
「だがこれは確実な方法ではない・・・早くなんとかして怪我の手当てをしなければな・・・・・・・俺が周りの様子を見てこよう。お前達はここで待っていろ」
ヘルムートの言葉に2人は反発する。
「俺はなんともねぇぞ。俺も行く」
「別に大した怪我でない。それにまとまっていた方が良いのではないか?」
「そんなに遠くまではいかない。ただの様子見だし、俺1人で十分だ。それにハーヴェイ・・・お前はそこの怪我人が無茶しないように見張っておけ」
てきぱきと二人の反発を退けると、ヘルムートは早々と森の奥へと消えていった。更なる反発が返ってきて言い合いになる前に。
残された物言いたげな2人は、しばらく無言でヘルムートが歩いていった方向を見つめていた。
「・・・・・・ふぅ・・・・迷惑をかけたな・・・・・・」
視線動かさないままシグルドが呟く。ヘルムートに向けた言葉なのだろうか。
ハーヴェイは何と言ったら良いのか迷う心情と何か言わねばと言う心情から困った顔で口をあけたりとじたりする。
無言に違和感を覚えて視線をハーヴェイに移したシグルドはその様子を見て苦笑した。
「・・・お前は金魚か」
「う、うるせーな!!だって、お前・・・違うだろ・・・!俺が・・・お前は違うだろーが・・・」
「落ち着け・・・支離滅裂だぞ・・・」
シグルドになだめられてハーヴェイは黙り、俯いた。
頭の中で少しまとまったのか、ぽつりぽつりと言葉を漏らし始める。
「俺が・・・敵の接近に気づいていれば、お前は・・・だから、俺のせいだろ・・・」
目を泳がせながら話すハーヴェイの様子を見てシグルドは、優しい口調で話し始めた。
「お前は戦いに集中していただけだろう?それよりも・・・・・・・お前の言う通り、飛び道具を持つ後衛が前に出る方がおかしいと思わないか?」
自嘲の笑みを浮かべ、シグルドは続ける。
「あの時・・・普通に敵を攻撃していれば何の問題も無く終わったたんだ。ただ、敵を発見した瞬間に・・・・・・体が既に動いていた」
まるで感情も思考も、全てが停止したかのように。
反射的に相手を庇っていた。
「心配をかけて・・・すまなかった」
シグルドが謝ると、ハーヴェイは泣きそうな顔でシグルドの手をつかんだ。
「・・・もうするな」
「もうしない」
「絶対だぞ」
「ああ・・・絶対だ」
相手が傷付くことは、自分が傷付くことよりも辛いことだから。
自分のため犠牲になられても苦しいだけだから。
「・・・じゃあ、許す」
ハーヴェイの言葉に、シグルドは一瞬きょとんとした顔をするが、すぐに笑顔に切り替た。
「ありがとう」
その笑顔があまりに眩しかったので、ハーヴェイは頬を赤くしてふいっ、と首をひねって視線をそらすのだった。


その後、ヘルムートが瞬きの手鏡で本拠地に戻り仲間と共に探しにきたアルトと合流し、なんとか日が暮れないうちに本拠地に戻ることができた。
小さな不幸の積み重ねは、小さな和解から崩壊していったのだった。


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