seepking indexへ text blog off link このぶつかり合い…格別だ!
off

■位置付け

戦いに敗北した瞬間に己の死を悟った。
母国の為に戦い、力の限りを出し尽くした。
自分の死は恐くない。だが、部下の命が散るのは我慢ならない。
そもそも疑問を覚えていた占拠だ。立場を捨てて命を残せば必ず道は開ける。
部下だけは助けてほしい。自分はどうなってもかまわない。その思いを敵のリーダーに伝えると、リーダーは優しく微笑んで手を差し伸べてきたのだ。
「じゃあ、仲間になってよ」
ヘルムートは驚きで目を丸くした。自分は殺されるものだと思いこんでいた。
リーダーの真意がわからない。だが約束したのはこっちだ。ヘルムートはその申し出を飲んだのだった。



「えーっと・・・ごめんねー。いきなりだったから部屋準備が整ってないんだよね」
「いや、こちらこそ手間をとらせてすまなかった」
敵の・・・いや、今は味方の、本拠地の廊下を歩きながらヘルムートはアルトに言われ軽く返す。
承諾後、今まで敵対していたのが嘘のように笑顔で話し掛けてくるアルトをはじめ、嫌な顔一つしないこの船の人間。
ヘルムートは多少戸惑っていた。首を落とされると思っていたものが、生かされているどころか個室まで与えてもらえるという。
不思議極まりない。
廊下で人とすれ違うと視線を浴びるが、それは珍しいものを見るかのようなものであって敵意を感じない。
一体この船はどうなっているんだ。
疑問をアルトにぶつけようにもどう言葉にして良いのか。悩んでいるうちに目的の場所に到着したらしくアルトはとある部屋の前で立ち止まった。ヘルムートもそれに習い立ち止まる。
事前に話は聞いている。明日か、明後日までに部屋を用意するからそれまで相部屋で我慢してくれ、と。
まさか個室が与えられるとは思っていなかったのでヘルムートは躊躇無く首を縦に振ったのだ。
アルトは軽くノックしたあとに自分の名前を名乗り、部屋から返事があるとアルトはその扉を開いた。
「ごめんねー。いきなりー」
「いえ、かまいませんよ」
部屋の主は快くアルトとヘルムートを迎える。この様子だと事前に話をきいていたのだろう。
「それじゃあよろしくね。ヘルムート、わからないことがあったらシグルドにきいてね」
そう告げるとアルトは笑顔でヘルムートとシグルドに手を振り、部屋をでた。
出ていったアルトの足音を聞きながら扉を見つめていたヘルムートに、部屋の主であるシグルドは声をかけた。
「恐らく明日には部屋の準備ができるだろう。それまで我慢してくれ」
言われてヘルムートは振り返る。椅子に座っていたシグルドはそのままヘルムートも座るように催促した。
「いや・・・こちらこそ迷惑をかける」
言いながらヘルムートは腰をかけた。そして軽く部屋を見渡す。
さすがに船の上だ。走り回るほど広いわけではないが、一人で生活するには余裕がある。
置いているものもそんなに無く、必要最低限といった感じだ。綺麗に片付いている。
もっとも戦闘や会議で部屋の役割は寝る場所程度なのかもしれない。
「船の案内はされているのか?」
「あ、ああ。大体はな・・・」
「そうか・・・では何か聞きたいことはあるか?」
シグルドは先のアルトの言葉を考慮してか、微笑を浮かべながらヘルムートに言った。
そう言われてヘルムートはふと忘れていた疑問が頭を過る。
「・・・・・・この船の人間は俺のことをなんとも思っていないのか?」
腕を組み、唐突に理解に苦しむ質問をされ、シグルドはきょとんとした表情でヘルムートを見ている。
言葉足らずだった、とヘルムートはまとめるのが大変そうな疑問を口にし始める。
「俺はつい先ほどまで敵だったのだ。この船を攻撃していたのだぞ?」
そこまででシグルドはヘルムートの言わんとしてることを理解したのか、顔に微笑が戻る。
「なんだ、そんなことを気にしていたのか」
「・・・随分軽いな・・・・・・」
ヘルムートは半眼でシグルドに言う。そんなこと、とは。現にこの船はクールークと戦っているというのに。
その元クールーク兵という立場がそんなこと、とは・・・
「まあこの軍も寄せ集め集団だからいちいち他人の過去なんて気にしてないんじゃないか?」
「そんなものだろうか・・・理解できん」
ヘルムートは眉をよせて理解に苦しむ。
そんな様子を見て、シグルドは困ったような微笑を浮かべて小さなため息をついた。
「そうだな。俺もそうだった。いや・・・今も多少感じるかもな・・・」
「何・・・?」
ヘルムートがシグルドの言葉に顔を上げるのと同時に、ノックが聞こえてきた。
扉に注目していると、控えめに扉が開き、苦笑したアルトが顔を覗かせた。
「ごめんシグルド・・・ちょっと手伝って欲しいんだけど・・・ヘルムート、ちょっとシグルド連れてっていいかな?」
「私は別にかまわない」
ヘルムートはアルトに返事をし、そのまま視線をシグルドに移した。
シグルドは立ちあがり、ヘルムートに軽く謝るとアルトの方へ歩く。
「いきましょうか」
「うん。あ、ヘルムート。のんびりしててねー」
まるで自分の部屋かのようにアルトはヘルムートに言うと、二人は部屋を出た。
ヘルムートは一人になる。
「のんびりと言われてもな・・・」
他人の部屋で何が出来ようか。
ヘルムートは先ほどまでシグルドが座っていた場所を見つめる。
シグルドの表情と言葉が気になっていた。
「俺もそうだった・・・?」
どの意見に対しての発言であろうか。流れから考えれば、シグルドも敵対していた場所へ移ったと受け取るのが自然であるが。
「(あいつは海賊キカの一味だと聞いているが・・・)」
そう考えるとヘルムートは思い出す。
海賊と言う情報を持っていていざシグルドと対面したとき、意外性を感じたのだ。
外見もそうであるが野蛮なんて言葉を感じさせない柔らかい言動と仕草。
それはヘルムートの勝手な海賊のイメージが間違っていたのかと思っていたのだが、もしかすると・・・
「(元々海賊ではない・・・?)」
結論にたどり着いたとき、部屋の扉がガチャリと開かれた。
随分と早い戻りだな・・・そう思いヘルムートが視線を向けると、そこにいたのはこの部屋の主ではなかった。
ヘルムートは目を丸くした。ノックが無かったのでてっきりシグルドが戻ったのかと思ったのだ。
しかし部屋の主だと思いこんでいたのは相手も同じことで、訪れた人物もヘルムートと似たような表情を浮かべる。
しばらく互いに硬直した後、訪れた人物はヘルムートを指さし、口をひらく。・・・が、言葉を発しないで口を閉じ、眉間に皺を寄せた。
・・・名前が出て来ないらしい。
「ヘルムートだ。部屋をもらえるまでここで世話になるよう言われた。お前は・・・・・・海賊キカの」
「ああ、ハーヴェイだ。よろしくな。ところでシグルドは?」
ハーヴェイは当たり前のように部屋の中に進入し、椅子に腰掛けた。
「リーダーに呼ばれて部屋を出ている」
「ふーん・・・」
やっぱりか、といった力の無い返事をしてハーヴェイはテーブルの上にあった本を自分のもののように手に取り、開いた。
そんなハーヴェイの横顔を見ながら、ヘルムートは考える。
思い描いてた海賊像。多少誤差はあるもののハーヴェイならば十分当てはまってるといえよう。
他人の過去を他人に聞くのは気が引けるが、ヘルムートは数行読んだだけで苦いものでも口にしたかのような表情を浮かべて本を閉じたハーヴェイに言う。
「ハーヴェイ、少し訊きたいのだが」
「ん?なんだ?」
テーブルに本を戻しながらハーヴェイはヘルムートに視線をやる。
「シグルドは・・・過去に海賊以外の何かだったのか?」
「ああ、まあな。何で?」
ヘルムートはシグルドとのやりとりをハーヴェイに伝える。
ハーヴェイはその話を聞いているうちにだんだんと眉がより、難しいことを考えているような顔をする。
「・・・なるほど・・・あいつがね・・・・・・」
「少々引っ掛かってな」
「ああ・・・・・・・んなことよりお前もあれだよなー。周りが気にしてないんだからそれでいいいじゃねーか。元クールーク兵とかよー」
ハーヴェイは不満そうに首を横に振った。
それはたしかにそうなのだが・・・ヘルムートはイマイチ割り切れない。
顎に手を当てて考え込んでいるヘルムートを見てハーヴェイはわざと大きなため息をついた。
「あーあ、どいつもこいつも・・・仲間が言ってることを信用できないのかー?」
「いや、そういうわけでは・・・」
「ならいいじゃねぇか。お前は俺たちの仲間で、一緒の船に乗ってるんだ。それだけ!」
「そう・・・だな。すまなかった」
そうだ。もう自分はこの船の一員だ。
たとえ過去に何があったとしても・・・。
ハーヴェイはヘルムートの表情が変わったのを感じると、小さなため息をついて立ちあがった。
「わかればいいんだ。んじゃな」
「・・・?シグルドに用があってきたのでは・・・」
ドアノブに手をかけるハーヴェイにヘルムートは疑問を感じて訊ねる。
んあ?と手をかけたまま振りかえり、ハーヴェイは言う。
「別に用っつー用はねぇよ。アルトの手伝いじゃあ当分戻らねーだろーしな」
「そうか・・・」
ハーヴェイはヘルムートに背を向けたままひらひらと軽く手を振り部屋を出た。
「・・・・・・・・・仲間、か・・・・」
一番元敵軍という立場を気にしていたのは自分だ。それはわかっている。
自分の生まれ育った場所。簡単に忘れることは出来ない。
だが、この戦争を早く終結する努力をしよう。
自分を『仲間』として迎えてくれたこの軍の一員として。

平和な大地を取り戻すために・・・・


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