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■不可解
「貴様、武器は所持しているのか?」
本人は何の感情もなしにそう告げたのだろうが、その態度と口調が妙にえらそうなのはいつものことだった。
宿での待機中、どこかへふらりと出かけていったユーバーがふらりと帰ってきて椅子にドカッと座ると、それが第一声。
アルベルトは読んでいた書類から視線をはなし、顔を上げてユーバーを見た。
話が唐突だ、意味がわからない。そう言い返しても強引に話を進めることは目に見えていたので普通に返答する。
「護身用に短剣を」
短く答えるとユーバーは何か考えるように眉間に皺を寄せた。
解答方法はこれで正しかったか。アルベルトはまた書類に視線を落とし、耳でユーバーの対応を待つ。
「それだけか」
「武器の扱いにはなれていないので」
直接戦うわけではないが、やはり裏で動いているのを勘付かれると自然と敵も増えていく。
得意分野の違いから単体行動も取らざるを得ない場合のことを考えると、護身用に何かが必要である。
隠し持てる上に扱いやすい短剣は重宝していた。
ユーバーはしばらく考えた後、突然転移魔法を発動させてその場から消えていった。
特有の光りに目を細めながら、それを見送るとアルベルトは小さなため息をついた。
「・・・一体何事だ」
確かに普段から我侭で振り回されることが多いが、今回のパターンは少し特殊である。
そもそも振り回される原因の大半は「暇だ」という理由が絡んでいるわけで、その度に勝手に外出してこいやら本でも読んでろやらで回避しようとするのだが結局折れるのはこっち。
だが今回は自主的にどこかへ出かけたかと思ったら帰ってきて唐突な質問をぶつけてまた消える。
・・・・・不可解だ。
「(まあアレが不可解なのは今更か・・・)」
書類を手にしたままアルベルトはユーバーが消えた箇所を眺めていた。
人間じゃないそれを呼んだのは自分であり、なんだかんだでそれを頼りにしているのも自分だ。
冷たく綺麗なオッドアイに吸い寄せられたのはいつからだろうか。
あの流れるような金髪に安堵を覚えたのはいつからだろうか。
「・・・不可解だ」
曖昧な始まりと現在の状況は不可解以外の何物でもなく、その不可解な現状を嫌っていない自分も不可解であり。
この、特殊な空間にいつまでも浸かっていたいと思うのを受けとめるには時間がかかりそうだが。
ぼんやりと消えた悪鬼の顔を頭に浮かべていると、その消えた箇所が同じ光りを放つ。
それに気づいたときには転移は完了していた。
帰ってきたユーバーは机の上に何かをバンッと乱暴に置いた。
「持っていろ」
「これは・・・・・・札、か?」
ユーバーが持ってきたものは紋章の封印球を札にかえたものである。
攻撃魔法のものを中心にサポート用のものまである。
「護身用に持っていろ」
「これをか・・・?私が持っていて役に立つのだろうか・・・」
普段戦わない人間がこんなもの持っていても使う機会はないと思うのだが。
アルベルトは札を数枚手に取り眺めながら言う。
「護身用だと言っただろう。単体行動しているときに何かあったら使えばいい。お前でも発動くらいできるはずだ」
短剣だけでは頼りない・・・ユーバーは眉を寄せて呟く。
その言葉にアルベルトは薄い笑みを浮かべ、立ちっぱなしのユーバーを見上げる。
「単体行動しているときに何かあったら・・・か。団体行動時に何かあった場合はどうする」
「団体行動時に何かも何も起こらないだろう」
当たり前のように言われ、アルベルトは微笑する。
「お前がいるからか?」
「わかってるじゃないか」
ユーバーはにやりと笑うと、アルベルトの唇に自分の唇を重ねた。
不可解を不可解のままにしておきたいと思えるそれが不可解であり、またおかしかった。
たぶんそれは自分がそれに変えられているのだと思うとやっぱり不可解で。
それでも現状が苦になっていないという事実だけは理解しているつもりである。
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