seepking indexへ text blog off link このぶつかり合い…格別だ!
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■室外のち室内(室外)

モンスターと遭遇し、逃げ回っているうちに仲間と逸れてしまったのは少々まずい話である。
そもそも戦闘は専門外だし、こんな鬱蒼とした森で道に迷うなどとは最悪だ。
シーザーは頭をかきながらとりあえず歩いている状態である。
まだ戦闘が続いていればその音や紋章による光が見えるはずであるが、それが見えない。
戦闘が終わっているのか、それとも戦闘している場所から遠く離れてしまったのか・・・
それにしては戦闘をしている気配がまったくないのはおかしい。そう考えるとやはり戦闘が終わっている方が自然だろう。
そしてそれはあっちもこの森を歩き回っている可能性が高い。
「まいったな・・・まさかこの歳で迷子になるとは・・・」
あいつが知ったらどんないやみを言われるか・・・
そこまで考えてシーザーはブンブンと大きく首を横に振った。
「なんでここであいつがでてくるんだよ・・・」
あいつ。
自分と同じ赤い髪、同じ緑色の瞳。でもそれらはまったく同じわけではなく、違う色。
そして同じ軍師でありながら対極の考えを持つ・・・・・実の兄。
縁をきったからもう兄ではない。縁を・・・一方的に。
「・・・やめやめ。なんでこんなときにあいつの・・・あ・・・・ああ・・・?」
シーザーはピタリと足を止める。
今まさに、頭に浮かんでいた人物が目にとびこんできて・・・
シーザーは半眼になって対象を凝視する。
あそこにみえるのは間違いなくアルベルトである。木にもたれて腕組みをしているそれを見間違えるはずない。
鮮やかで冷たい、赤。
「アルベルト!!」
シーザーが叫ぶとアルベルトはようやく気づき、目を丸くした。
「シーザー・・なんでこんなところに・・・・?」
自分もそうだったのだから相手だってそう感じても不思議ではないだろう。シーザーがかけより、荒い息遣いで兄をにらみつけた。
「そりゃこっちの台詞だ!なんでお前こんなところにいるんだよ!!
「待ち合わせだ」
即答されてシーザーはたじろぐ。
まあたしかに軍師がこんなところでひとりうろつくのもおかしな話である。そのくらいの理由はあるだろう。
「それで、お前は?」
「お、俺?俺は・・・俺も待ってるんだよ、仲間を」
仲間とはぐれて迷子になりました、とは口が避けてもいえないシーザーはとっさに言う。
あきらかにしどろもどろした返答になってしまったがアルベルトはとくに気にしていないようだった。
「軍師をひとりこんな森の中に放置していくとは、ずいぶんな仲間だな」
「・・・そりゃお前だって・・・」
「お前の仲間とは種類が違う」
たしかに、こっちの仲間は怪しげな召喚魔法も転移魔法も使えないが。
そこで会話は途絶える。
・・・気まずい。
シーザーはそう感じてきょろきょろと落ち着き無くあたりをみまわしてみる。
話題が無い。いや、縁をきった兄と会話をする必要も無い。敵対している間柄であるし。
しかしシーザーは沈黙に耐えられなかった。息苦しい。
そう思っているのはこちらだけのようでアルベルトは宙一点をみつめたまま微動だにしない。
「・・・何企んでるんだよ」
話題が欲しかったのでシーザーは半眼で訊ねてみた。
アルベルトはその声に反応してシーザーに視線を移すが、すぐに視線を元に戻す。
「さあ・・・お前が知らなくてもいいことだ」
「あっそ・・・・」
また会話が途絶える。
そもそもそんなに持つ話題がこの2人にあるのだろうか・・・シーザーが頭をかきながら考える。
しかし、幸か不幸か今回の沈黙は長くは続かなかった。
「シーザー・・・・・・」
体勢を変えずに、アルベルトは呟くように言う。
「あー?」
「いつまでここにいるんだ?」
「そ、そりゃお前・・・仲間が見つかるまで・・・じゃなくて、仲間と合流するまでに決まってるだろう!」
「・・・・・・・・・・・・」
アルベルトは無言で眉を寄せた。
まさかこれだけのことで迷子だなんてバレてない・・・よな・・・?
シーザーはアルベルトの様子を伺いながら冷や汗をかく。
するとさっきからずっと無表情だったアルベルトの顔に変化が現れた。
なんだ・・・?シーザーが思いかけた瞬間、後ろから凄まじい気配は感じて振り返る。
血に飢えた、モンスター。
「ちょ・・・っ!?」
確実にそれはシーザーを捕らえ、唸りを上げながらこちらへ近づいてきている。
思考が停止する。これからどうすればいいとか、どうすれば回避できるかとか、考えるべきことすら頭に浮かばなかった。
「伏せろ!シーザー」
真っ白になった頭に、その言葉はすんなりと入ってきた。
シーザーは考える間もなくその場に伏せる。
目を強く瞑っていると、何かが燃える音と時間差でモンスターの悲鳴に近い鳴き声が耳に入る。
恐る恐る顔を上げて振り返る。突然の炎に驚いたモンスターが走り去っていくのが見えた。
「た・・・・すかった・・・」
大きく安堵のため息をついてシーザーはその場に座りこんだ。
「ふむ・・・護身用にと持たされていたのだが・・・なるほど役に立つ」
関心したように呟くアルベルトに目をやると、その手には札が握られていた。
さっきの炎はそれか・・・シーザーはようやく状況を飲み込んだ。
「無事か?シーザー・・・・・・っ」
ずっと座りこんだままのシーザーにアルベルトが近づこうとする。が、一歩踏み出したところで顔をゆがませた。
すぐ元の表情に戻ったがシーザーがそれを見逃すはずも無く。
こちらに近づいて手を差し出しているアルベルトの顔をまじまじと見つめた。
「・・・なんだ。敵の手など借りたくはないか?」
「いや、お前足怪我してるだろう」
「・・・・・・・・・何の話だ」
シーザーはアルベルトの手をしまわせると、自力で立ちあがりアルベルトに詰め寄る。
「ごまかすなよ。歩き方に違和感があったぜ。それに・・・」
「シーザー!どこいったんだよー!!」
遠くから聞こえてくるのは聞き覚えのある仲間の声であり、シーザーは言葉をとめた。
そうだった、今の状況をすっかり忘れていた。
「呼んでいるぞ」
「呼んでるけど・・・でもお前・・・」
「早く行け。敵の軍師と接触して会話してたなんてことが知られてはお前もまずいのではないか?」
正論でこの場を逃れようとはずるい・・・
シーザーはそう思って睨んだが、相手は相変わらずの無表情である。
「・・・・ちっ・・・・・・・・くだらない死に方だけはするんじゃねーぞ!!」
「定義がわからんが、一応心得ておこう。お前も・・・・死ぬなよ」
「死なねーよ!!てめーの考えを更正させるまではな!!」
言い放つと、シーザーは後ろ髪引かれながらも仲間の元に走り去っていった。
残されたアルベルトは腕を組みながらその後姿を眺めていた。
「・・・あいつは死なない気か」
「考えを変えるという選択肢は無いのですね」
後ろから唐突に話しかけられるが、アルベルトは大して驚きもせずに目を伏せる。
「覗きとは良い趣味ですね、セラ」
「兄弟の再会を邪魔しなかっただけ感謝されたいですね。貴方の仕留め損ねた獲物ならとどめをさしておきましたよ」
「それはどうも。目的は終了したんですか?」
アルベルトが振り返ると、そこには予想通りの人物が立っていた。
セラは薄い表情でアルベルトの足を見る。
「ええ・・・それにしても応急処置くらいはしたほうが良いと思うのですが・・・」
「歩けるので問題ないでしょう」
「そうですか・・・ならば貴方が無理しすぎないうちに戻りましょう」
セラは転移魔法を唱える。
先ほどまでは4人で行動していたアルベルトをここに転移させたのはセラである。
足を捻った現場も見ているし、怪我の具合も知っている。
歩くのに支障がでるほどの捻挫であったからわざわざモンスターの少なそうな場所で待機させていたのに、これでは。
セラはため息をついた。
「貴方は・・・戦略的な分野以外にも頭脳を使ってみるべきだと思いますよ・・・?」
「生憎それ以外のものに気が回らないもので」
「弟の心配はするのに?」
「・・・・・・・・・・・・」
相手が黙ればこちらの勝利。
セラは小さく笑うと今日の宿へと転移した。


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