seepking indexへ text blog off link このぶつかり合い…格別だ!
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■シロツメクサ

別行動をとるルックとセラを待つためにむかった場所は、人気の無い静かな湖のほとりだった。
次にむかう場所を考えると、町で待ち合わせるよりも都合がよい、というのが大半。
ただたっているけで目立ってしまうなんとも派手な(不本意)組み合わせであるからという理由が少々。
「つまらん場所だ」
無言であたりを見回していたユーバーがやがてため息混じりにいった。
・・・たしかに、人気もなければ獣の気配も無い。るといえば小鳥や小動物の気配と草花の息吹か。
この男がそんなものに興味をみせるわけもなく、その感想にたどり着くのは当たり前といえば当たり前だ。
「別にわれわれは娯楽を求めてここにきたのではない」
「ふん・・・」
アルベルトが正論を述べるとユーバーもそれ以上なにを求めるわけでもなく黙って雑草が生える地面につまらなそうに座る。
指定の時間までまだある。
たしかにこのわがままな人外でなくともこの状況は多少もったいないような気がする。
昼寝でもしてやるか・・・そう思ってアルベルトが足元に目をやると、見覚えのある花が目に入る。
それば雑草の一種であるが・・・・・・
「(ずいぶんとなつかしいな・・・)」
アルベルトはしゃがみこみ、その花を手に取った。



「お兄ちゃーん」
弟は何がそんなにうれしいのかわからないが、万遍の笑みで駆け寄ってくる。
「シーザー。どうした?」
その笑顔につられて、アルベルトは微笑む。
弟は説明するの時間ももったいないのか、はやる気持ちがおさえられないのか、アルベルトの腕を引っ張る。
「早く!早くきてー」
そんな弟に苦笑しながらも引っ張られるがままにシーザーについていった。
家の近くの、草むら。
そこにたどり着くとシーザーは自慢げに話し始める。
「これ!この花!前に図鑑でみたやつだよね!」
そこに生えていたのはシロツメクサ
たしかに数日前にそれがのっている図鑑を、シーザーに読んであげた気がする。
きちんと本の内容を覚えていたのか・・・アルベルトは少しうれしくなってシーザーの頭をそっとなでた。
「そうだよ。ちゃんと覚えていたんだな、シーザー」
兄にほめられてうれしくなったのか、シーザーはさらに顔を明るくさせて、いきいきとした口調で話した。
「ねえおにいちゃん。この花、まるくなるんでしょ?」
「まるく・・・・?ああ、もしかして・・・」
アルベルトはしゃがみこむと、手ごろなシロツメクサを摘み、それをひとつひとつ編み始めた。
スルスルと一つになってゆくシロツメクサをシーザーは目をそらさずにじっと見つめている。
そんなシーザーを横目で見ながらアルベルトは小さく笑った。
やがて編んでいたシロツメクサを円形にまとめると、アルベルトはシーザーの頭にそれをのせた。
「できたぞ」
「すごーい!」
目を輝かせる弟の赤い髪の毛に、シロツメクサの白は良く映える。
「よく似合っているぞ」
ほめられたのがよほどうれしかったのか、シーザーは立ち上がっていう。
「じゃあ今度はね!お兄ちゃんに作ってあげる!!」
「お前にできるのか?」
「できるよ。今見てたもん・・・・・・んー・・・っと・・・・」
早速悪戦苦闘するシーザーに、アルベルトは苦笑した。
「違うぞシーザー。ここは・・・」
「うー?」
なかなかうまくできないシーザーに、アルベルトは丁寧にできるようになるまで教えてやった。



結局完成したのは夕方だったか。
それでも完成したときの弟のうれしそうな顔は忘れられない。
シロツメクサを一輪手に取り、くるくると指先でまわしながらアルベルトはその時の顔を思い出す。
ふと顔をあげると、目を丸くしたユーバーがこちらを見ていることに気がつく。
不思議に思い、アルベルトは首をかしげた。
「どうかしたのか?」
「お前・・・そんな顔できたのか・・・」
「は?」
あまりに真剣な声色でユーバーが呟くものだから今度はアルベルトが目を丸くする。
何のことだかさっぱりわからない。
ユーバーは帽子をかぶりなおしながら小さくため息をついた。
「冷静沈着な軍師様は自分が笑ったことにも気づかないほど思考を巡らせていたとみえる」
「・・・・・・笑っ・・・・・てたか?」
「ああ」
「・・・・・・・・それは不覚だった」
アルベルトは口元を片手で押さえながら眉間に皺を寄せた。
思い出し笑いとはいくらなんでも不覚すぎる・・・アルベルトはため息をついた。
しかもよりによってこの男に見られるとは。
当の『この男』は地面のシロツメクサに視線をやっていた。
「この草の何処が面白い?」
ユーバーは眉を寄せる。どうやらアルベルトがシロツメクサを見て笑ったことまで観察できていたらしい。
「別に面白くはないが・・・昔これで遊んだことを思い出しただけだ」
「遊ぶ・・・?この草でか?」
「まあ・・・確かに今考えれば馬鹿げているが・・・この二つをこう、クロスさせて両端を引っ張り先にちぎれたほうが負け・・・とかだな」
ユーバーにシロツメクサの両端を持たせ、そこにもう一つのシロツメクサをアルベルトは引っ掛け引っ張る。軽く引っ張っただけできれてしまったシロツメクサを、アルベルトはユーバーに見せる。
ユーバーは考え込むような表情でそのシロツメクサを見つめた。
「・・・・・・・楽しいのか?」
「さあ・・・あまり外で遊んだ記憶がないものでな」
持っていたものを手放し、新しいシロツメクサを手にすると、アルベルトは深く考えずにそれを編み始めた。
「昔それで遊んだと言ったのは貴様ではないか」
「1回きりだ。外で遊んでいる暇があるくらいなら部屋で本を読んでいるほうが知識となる」
「ふん・・・昔から可愛くない人間だったのだな」
アルベルトの作業が珍しいのか、ユーバーはアルベルトの手を目で追いながら会話している。
まるであの時のシーザーだ。そう思うとアルベルトの顔が緩む。
「別に可愛いと思われたくは無い・・・・さて」
アルベルトはユーバーの帽子ははずし、完成したシロツメクサのリングをユーバーの頭にのせて微笑んだ。
「よく似合っているぞ」
「何を言う・・・」
ユーバーは少し不満そうに自分の頭にのせられたそれをはずすと、アルベルトの頭にのせた。
「白ならばお前の髪の方が映える。お前の方が似合う」
言われてアルベルトは、シーザーの赤い髪によく似合っていた白を思い出す。
そしてその赤い髪を、自分も持っているのだ。
アルベルトは頭にのせられたリングを触り、小さく笑った。
「お前がそんなことを言うとはな。珍しいこともある」
「ふん・・・貴様の笑顔ほどではない」
アルベルトから帽子をとり返し、ユーバーは帽子をかぶりながら言う。
「・・・・・・・そんなに笑っていたか・・・?」
「ああ。自覚がないのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「難儀だな。だが・・・そんなに悪いものでもない」
ユーバーはニヤリと笑うと、アルベルトの唇に自分の唇を重ねた。
荒っぽいが、強引なものではない。
ユーバーが放れると、アルベルトは口に手を当てて困惑の表情を浮かべる。
「今ルック様達が来たらどうするつもりだ」
「知るか。そのずる賢い頭でいいわけでも考えるんだな」
「限界があるだろう・・・」
げんなりした顔で頭の上のリングを手に取り、見つめる。
大喜びしていた、弟の姿を思い出してアルベルトは苦笑する。
「今のあいつは・・・こんなもの触りもしないだろうな・・・」
そう呟くとアルベルトは立ちあがり、湖に向かってシロツメクサのリングを思いっきり投げた。
小さな水飛沫をあげ、姿を消す。
波紋が、大きな湖に広がっていくのが見えた。


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