seepking indexへ text blog off link このぶつかり合い…格別だ!
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■停電警報

黒い雲で覆われた夜空が広がるとある一夜、電気のついていない暗闇の部屋。
足音を立てずにこっそりとドアの方へ歩くシードにクルガンは冷たい口調で短く言った。
「何処へ行く」
「えーっと・・・フリックのところ」
ピタリとその場に立ち止まり、シードは引きつった笑顔でクルガンの方を見た。
正直に打ち明けたところでクルガンが許すはずもない。
クルガンは口元だけ薄っすら笑みを浮かべてシードに言う。
「ほぉ・・・締め切り間際の書類を放置して・・・か・・・?」
机の上には山積みの書類。言うまでも無く手付かず。
シードはあらぬ方向を見ながら動揺を隠しきれずにごまかそうとする。
「さ、さあ・・・暗くて見えないなー・・・・・」
「・・・・・・何を言い出すかと思えば・・・」
クルガンは立ちあがり、足音を立てずにシードに近づき正面でとまると、シードの服を脱がせようと手をゆっくり近づけてゆく。
その手を確実に目で捕らえながら、シードは片腕を自分の胸に持っていき、後ずさりをした。
「・・・・!?な、なにすんだよ!!」
「・・・・・・見えているではないか」
「うっ・・・い、いやそれは・・・」
冷静なクルガンの言葉にシードは慌てて何か言い訳をしようと言葉を探す。
しかし確実に見つけることができないとわかっているクルガンは小さなため息をついてシードに言った。
「人一倍暗闇でも物を捕らえる目を持っているんだ・・・もっとうまい言い訳をするんだな」
言われたシードは唇を尖らせた顔を軽く俯かせ、完全に自分が負けたことを悟る。
「お前だって暗くても物見えるじゃんよ・・・」
「お前ほどではない」
「・・・・・・なあ、どうしてもダメ?」
上目遣いでクルガンの様子をうかがいながらシードは訊ねる。
だがクルガンの表情は動かない。
「その山のような書類を片付けたら好きにすればいい」
「ケチー・・・」
「正論でケチ呼ばわりされる筋合いは無い」
まったくもってクルガンの言う通りなのだがどうしてもなんとかしたいシードは最終手段に出る。
「じゃあ手伝ってくれよ・・・俺一人じゃ終わらねーよ」
「そんなこと見返りがなければやる気にならん」
「見返り・・・?んー・・・・・・・っ!お、おい、ちょっ・・・・!」
考えているシードをベッドに押し付け、クルガンはシードの胸に手を添えた。
「前払いで良いぞ」
「~~~~~~っ・・・・・絶対手伝えよ?」
頬を赤くしたシードが観念して視線をそらしたところで、クルガンは薄く笑って見せた。
「約束は守る」



昨日の悪天候をさらに悪化させたような天気の中、シードは何の問題も無くフリックの元へ足を運んだ。
「フリックー」
「シード・・・よくこんな天気の中来たな・・・」
フリックは驚きと嬉しさと呆れが入り混じった言葉をシードにかけた。
今日天気が崩れそうなのを悟っていたシードは昨日のことを思い出しながら、少し不機嫌そうな顔をしながら呟いた。
「ほんとだよなー。だから前日に来たかったのに・・・」
「?まあ、来てくれたのは嬉しいが・・・・お前、仕事はどうした?」
「心配いらねーよ。ちゃーんと終わらせてきたから」
フリックは予想していなかった答えに、目を丸くする。
「お前が?仕事を??」
「・・・そんなあからさまに驚くことねーだろー?酷ぇなあ・・・」
たしかに普段仕事をサボって遊びにくる故、フリックが驚くのも無理はない・・・そう思いながらもそんなに驚かれると面白くない。
シードが不機嫌顔に変わったのに気がつき、フリックは慌てて謝る。
「い、いや悪い・・・しかし俺じゃなくても驚くと思うぞそれは・・・」
「それだけのものを払ったんだよ俺は」
「払う?」
「いや、こっちの話。それよりさフリック・・・・」
シードの話の途中で、プツッ・・・と部屋が真っ暗になった。
何処を見ても真っ暗で、心なしかさっきよりも静かになった気がする。
「何事だ・・・?」
「停電かな・・・?俺ちょっと見てくるよ」
「見てくるって・・・シード?」
スタスタ歩き始めたシードにフリックは声をかける。
フリックが言いたいことを理解したシードは、フリックの方を振りかえり、笑顔を見せる。
しかしフリックには見えていない。
「こんなの手探りでなんとかなるって。あ、そうだフリックは放電でもすればいいんじゃない?」
「放電てお前・・・」
「そこで待ってろよー」
相手には見えないとわかっていながらもシードはフリックに手を振って部屋を出た。
フリックは扉の開く音でそれを悟る。
「・・・手探り、ねぇ・・・・・・」
その迷いの無い足音は確実に手探りではない。
この暗闇を自由に動けるシードに関心しながらフリックは辺りを見まわした。
やはり、何も見えない。
おとなしく明かりが灯るのとシードを待つか・・・そうフリックが小さなため息をついたとき、扉の開く音がした。
数回足音が聞こえたと思うとその足音はピタリと止まる。
「・・・シード?」
戻りが早いのに疑問を持ちつつフリックは声をかける。
しかし侵入者はその声をきいた途端に再び足音を発し始めた・・・フリックの方向に。
不審に思って身構えようとしたフリックだったが次の瞬間、探るような手に捕まれ、手がフリックを確認すると、そのまま引き寄せられ抱きつかれた。
「・・・・っ・・・・!!ビクトール!!!」
「なんでぇ、バレちまったか」
こうなることはわかっていたが、わざと残念そうな声を出してビクトールは言った。
「当たり前だ!い、いきなりその・・・体を撫でるな・・・」
怒鳴り声から始まった台詞が、だんだんボリュームのしぼんでいく様に、ビクトールはにやにやと笑みを浮かべた。
「悪ぃなぁ・・・声で場所を特定したんだが暗くて手探りだったもんでよ・・・・感じちまったか?」
「だ、誰が・・・んぅ・・・っ」
否定しようとしたところで、フリックの唇は温かいものでふさがれる。
それが相手の唇であることを理解するのに大して時間はかからなかった。
何度も何度も口付けされて離れる気配の無いビクトールに、フリックは抵抗するものの相手の馬鹿力にかなうはずもなく。
いつもならここで諦め、流されるフリックであったが、今日はいつもと勝手が違う。
シードが、いつ戻ってくるか・・・・・・・・・
こんなところをシードに見られたくはない。しかもシードは暗闇でも目の利く様子だったし・・・
なんとかしなくては。
フリックは必死で考える。早くしなくては・・・シードが戻ってくる前に・・・・・・
そこでふとフリックは先ほどのシードの言葉を思い出した。
『放電でもすりゃいいんじゃない?』
言った本人としてはこのような使い方を想像したわけではないだろうが・・・・・・
フリックは拳に神経を集中させた。
暗闇の中、紋章が浮かび上がる。
そして次の瞬間、フリックから通常の攻撃よりも威力の無い雷が発生する。
だが相手を引き剥がすには十分だった。
「・・・いででででででで!!!」
ビクトールはいきなり感じた痺れと痛みでフリックから急いで離れる。
その瞬間、部屋にパッと明かりが戻った。
「・・・・・・・」
頬は赤いものの、凄まじい形相でこちらを睨むフリックが目に入り、ビクトールは引きつった笑みを浮かべた。
「わ、悪かったよ俺が・・・」
「フリックー、なんか近くで雷が落ちて・・・・ってなんだ、ビクトールもいたのか」
ちょうど帰ってきたシードは停電の原因を報告したが、途中ビクトールの姿を見つけるとそちらに気がいってしまい中途半端な報告で終えてしまう。
「雷ならここにも・・・ってそう睨むなよおい・・・」
未だに睨んでいるフリックに気がつき、ビクトールはいたずらが過ぎたか、とほんの少し反省する。
それでもフリックの表情は変わらなかったが、また辺りが暗くなることでその顔は見えなくなった。
「あ、また消えた」
「随分安定しねーなぁ・・・これじゃあ何にも見えねぇ・・・・」
とかなんとかいいつつビクトールはフリックの腰に手を回した。
暗くなってから場所を移動していない。それは容易なことだった。
ビクッと体を震わせ、フリックはビクトールのいるであろう方を思いっきり睨みつけて怒鳴った。
「・・・・っ!おい!ビクトール!!」
「おー、何を怒っていらっしゃるのかな青雷のフリックさんは」
「貴様・・・殴られたいか・・・?」
「あー恐い恐い」
ビクトールはフリックから離れて場所を変える。
この暗闇で動けば場所も特定できないだろう。
魔法を使うにもシードがいるからそうそうぶっ放せない。
たしかにその思惑は正しかった。だがビクトールが計算にいれていないものをフリックは知っている。
「・・・・・・・・・・・・・シード」
「え、いやでもフリック・・・」
フリックの自分を呼ぶ声色で何を言われているのか悟ったシードは少しためらう。
「いい。俺の代わりに思いっきりいけ」
そう言われては断れない。シードは諦めた顔で頭をかいた。
「容赦ねぇなぁ・・・・・悪い、ビクトール」
「ああ?・・・どわっ!!!!」
シードはビクトールの背後に立つと、右足で思いっきりビクトールの背中を蹴飛ばす。
突然のことにビクトールは何もできず、床に倒れこんでしまう。
ビッターンとその音を聞き、フリックは多少呆れた口調で言う。
「・・・容赦ないのはお前だろ」
「えー?手加減したぜー?」
不思議そうな声でフリックの言葉を返すシードにフリックは苦笑する。
「・・・・・・お前は手加減が下手なんだな・・・」
「?そうかぁ??・・・・・・・・なあフリック」
「ん?」
呼ばれたもののシードがどこにいるのかわからないので顔だけあげたフリックの指に、シードが自分の指を絡めてきた。
完全に手のひらが合わさる形になると、フリックは微笑み、ぎゅっと力を入れて手を握り返す。
その反応にシードが微笑んでくれた・・・ように暗闇の中フリックは感じた。



「・・・なぁるほど・・・そりゃ便利な特技だな・・・」
停電も終了し、シードが帰った後、ようやくフリックはビクトールにシードが暗闇でも目が利くことを教えた。
「たしかに実践で相当役に立つだろうな」
「でもあれだよなぁ。ベッドの上だろーがなんだろーが、いくら電気消しても見えちまってるってのはどうなんだろうな」
「・・・・・一体なんの話をしだすんだお前は・・・・」
おかしな方向に持っていくビクトールをフリックは軽く睨みつける。
だがビクトールは動じない。
「だってお前の場合電気を消せって・・・いってぇ!!!!」
「シードと違って俺は手加減がうまいからな・・・安心しろ」
「いくら手加減がうまくても手加減しないんなら関係ねーだろ!!!」
怪しい雲が通り過ぎ、青い空を取り戻した午後、まだ鳴り止まない雷に一つの悲鳴が響き渡った。


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