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■天秤
本当に戦闘以外については子供同然といっても反論する人間は本人くらいであろうといったそのギャップ。
戦場の彼しか知らない人間が今現在この姿を見かけたらどう思うだろうか。きっと何もかも馬鹿らしく思うに違いない。
そしてそんな姿に見なれてしまった自分もある意味悲しい。
「・・・シード」
返事が無いとわかっていながらも声をかける。
たしかに今日は遠征も無く、天気もいいし気持ちはわからないでもない。
しかし遠征が無いということはイコール仕事が無いというわけではない。
今ごろ机の上は書類が山のように積まれているだろう。そしてそれを片付けるのは最終的に自分なのだろう。
鳥のさえずりと木の葉の揺れる音を子守唄に、深い夢の中へと旅立っている猛将は、木陰で気持ちよさそうな寝息を立てていた。
「まったく・・・本当にお前は・・・」
シードの姿が見えなかったので探しに来た智将は小さなため息をつく。
まるで二十歳を優に超えている人間には見えないその寝顔が、その空間だけ別世界に見える原因だろうか。
どうせ仕事を引き受けるのは自分だとわかっているのでこのまま寝かせておいても支障はないのだが、部下を持つ身としてこの状態はどうなのか・・・起こすか起こさないか迷っていると、事態が動いた。
「・・・っどわ!・・・・いってぇ~・・・なんだ・・・?」
枕代わりにされていた野良犬が目を覚まし、移動したのだ。
無論、重力に逆らうことなく、見事に音を立てて地面に頭をぶつけたシードはきょろきょろ辺りを見まわす。
「・・・・・・それだけの衝撃があればさすがのお前でも一発で目を覚ますのか」
「あ、クルガン。えーっ、と・・・なんでこんなところにいるんだ?」
「それはこっちのセリフだ。堂々とサボりか」
相変わらずのシードに相変わらずな反応を返す。
「サボってねーよ。今休憩なんだよ」
ぶつけた頭を押さえながら、シードは当たり前のように言う。
今日、シードが机に向かっている姿を一度も見ていないのだが・・・
「ならばもう休憩は終わりにしろ。今日中に書類を提出しないと明後日の遠征にへは連れていってもらえないぞ」
「遠征!?」
シードがガバっと体を起こし、上半身乗り出して目を輝かせる。
・・・まるで遠足へ行くかのような反応。
「訓練を装ったものでまだ少数の人間にしか告げていないものだ・・・」
「へー、そうなんだ・・・それじゃあ昼寝なんてしてる場合じゃないな!」
すくっと立ちあがり、シードは笑顔をつくる。
その笑顔をクルガンに向けて、言った。
「クルガン、手伝ってくれるよな?」
「・・・・・・・・・『手伝う』だけだぞ」
「サンキュー、クルガン」
この子供のような笑顔が戦闘に入ると『猛将』へと変貌する。
変貌といっても根の部分は変わっておらず、結局自分のやりたいことをやりたいだけやっているのだ。
当然足りない部分も現れてくるけれど。
「・・・結局・・・フォローに回るのだな・・・」
「?何かいったか?クルガン」
「いや・・・何も」
この天秤のバランスが保たれている間は、いつまでも一緒に・・・
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