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■残されたもの
「お前は・・・どこにもいかないか?」
短い問いかけに含まれた悲しみと不安は、はかり取るまでもなく重くのしかかる。
「お前は俺を一人にしないか?」
比較対象は強く、攻撃的で、ひどく傲慢であったがそれさえも愛でる事ができただけに失ったときの悲しみは大きい。
今目の前にいる人物からは『猛将』などと呼ばれている姿など想像もできないのだ。
「俺は・・・国を選んだ。国を選んだ・・・のに・・・」
その言葉は後悔なのか、それもと別のものなのか。
絶対に戻り得ない過去の時間と現実を同時に思い出して声を震わせている。
「結局俺は・・・どちらも選びきれずに・・・」
だんだんと小さくなっていく声もしっかりと拾いとり、決して聞き逃さない。
それが、今唯一できることだ。
「死んだら会えないって・・・当たり前なんだけどな・・・」
こぶしを強く握る手からは血が滲んでいる。
耐えて、耐えて、耐えて・・・
「俺・・・俺・・・何がしたかったんだ・・・?」
解答を知っている疑問を口に出す。少しでもどこかへ逃げ出せるように。
ここまで陥れた元上司に憎さすら湧き上がるのだが、その黒髪の獣が、彼にとってどれほどの存在かわからないほど冷静さを失ってはいない。
「なあ・・・お前はどこへもいかないよな・・・?」
恐る恐る口から出た質問は、どこか答えを聞きたくないようにも思える。
「ずっと・・・・・・一緒に・・・」
叶わない可能性の高い願いは、今彼が最も求めているもの。
必要とされているのは何であろうか。
ただの、身代わりか、それとも・・・
「死ぬまで・・・一緒に・・・・・・」
心底必要としているものは何か。
一体何を必要としているのか。
本人もわかっていないのかもしてない。
もしかしたら、求めているのではなく、失いたくないのだろうか。
失いたくないのか。
それも・・・悪くは無い。
それだけでも想われているのならばかまわない。
これ以上、悲痛な面持ちのこいつは見たくない。
「ああ・・・死ぬときは一緒だ」
暖かな日差しを注ぎ込むように。心の中に流し込む言葉。
そっと腕の中に包み込むと、一瞬こわばった体が緩む。
早くいつもどおりの笑顔を見せてくれたなら。
俺は・・・それだけでいい。
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